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Mon fils à moi 息子は私のもの

フランス・ベルギー映画 (2006)

撮影時13才くらいのヴィクトル・セヴォー(Victor Sévaux)が主人公を演じる「見ているのが辛い」映画。実際、サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀映画賞(ゴールデン・シェル)に選出された時、地元スペインの評論家からはブーイングが起きたとか。映画としての出来云々よりも、主人公の少年を苛め抜く鬼のような母親ナタリー・バイ(Nathalie Baye)への反発が強かったのではないか(バイは、この映画祭で主演女優賞を授与)。愛憎は一重というが、愛が一旦憎しみへと変わった後の、この母親はひど過ぎる。因みに、原題の “Mon fils à moi” の “Mon fils” だけで「私の息子」。だから、この映画の題名を「私の息子」とするのは完全な間違い。強調の “à moi” を生かして、「息子は私のもの」と独占欲を感じさせるべきだ。

ジュリアンは、優しくて理解ある姉と、溺愛型の母と、家事一切に無関心な父の4人家族。母は姉を嫌い、ジュリアンを溺愛するが、あまりに好きなため、自分で独占しておきたいという意識が強い。そして、自慢の息子の成績が少し下がった時、それを自分でコントロールしてやろうと思う。独占から支配への移行だ。支配するからには、自分と競合するものはすべて排除する。特にガール・フレンドなどは、自分との愛を裂くものだと強烈に嫉妬するし、禁を破ってガール・フレンドに接近したジュリアンを激しく攻撃する。ジュリアンに親しい姉は家からさっさと大学の寮に追い出し、ジュリアンを好きな祖母(自分の母)の家には行かせない。成績がもっと下がると、厳しい制裁。こうした行為は、歯止めなくエスカレートし、一種のSOSとしてのジュリアンの自殺予告を経て、母をナイフで刺す衝撃的な最終場面へと突き進む。

ヴィクトル・セヴォーは、典型的なフランスのハンサム・ボーイ。ノーブルで整った顔立ちだ。その彼が、頬を叩かれ、体をぶたれ、足で蹴られるのを見るのはあまりに可哀想。役柄もあって、表情にあまり変化がなく、台詞も少ないので、演技に感心する機会はあまりないが。


あらすじ

小さな朝食テーブルを4人で囲む幸せそうな4人家族のシーンから映画は始まる。そして、その直後、母と息子ジュリアンが客間の家具を仲良く動かし、そこでダンスをする。その間、ずっと歌が流れる。「♪君を迎えに来た。僕を待ってると 分かってたよ。僕たちは、互いに相手なしで済ませられないと、分かってたよ」(2回目のダンス・シーンの歌詞と比べると面白い)。その後で、屋根裏で古い衣装箱を出し、母と息子で帽子を被り合うシーンもある。如何にも仲がいい。
  
  

ジュリアンは祖母の家にピアノを習いに行き、祖母とも仲がいいし、一緒に習いに来ている同級生のアリスともアツアツだ。大学生になったばかりの姉とも仲がよく、楽しそうにふざけ合う。ジュリアンの最も幸せだった時。
  
  

その生活が激変する最初のきっかけは、学校の物理の成績が下がったこと。母に呼ばれ、先生からのことづけとして、週2回、補習クラスに出るよう申し渡される。「火曜と木曜の夕方」という言葉に、「火曜は、サッカーが」とジュリアン、「サッカーの後よ」と母。「問題ある?」。「ないよ」。でも、少し違和感が漂う。夜、ジュリアンが父とテレビを見ていると、「部屋に行って、物理の復習をしなさい」「終わったら、ピアノでも どう?」。母が、ジュリアンをコントロールし始めたのだ。
  
  

翌朝、ジュリアンがお風呂を出て、自分の部屋に戻り、バスタオルを外して全裸になった時、「急がないと、バスに遅れるわよ」と母が入って来る。思わず両手で前を隠すジュリアン。それを見た母は、「この子ったら…」「何 隠してるの」「え?」「何度も 洗ってあげたでしょ」「手を 外して」「驚くようなものじゃなし」。それでも、隠したままなので、笑顔が消え、置いてあったバスタオルを手に取ると、「さあ!」と言って、隠している手をタオルで叩き、「手を どけて」「何かのゲーム?」「隠し事?」「悪ふざけ?」「私が怖い?」。そして、置いてあったパンツをすばやくつかむと、「手を下ろしなさい!」と強く命じる。しぶしぶ手を放すジュリアン。「ほらね」「難しくないでしょ」とパンツを渡す。部屋を出て行った母の方をじっと見つめ続けるジュリアン。母の異様な支配欲の一端が、思春期を迎えたジュリアンの心を踏みにじったのだ。
  
  

その日の夕食。ジュリアンは、フォークでつつくだけで食べない。「お前のために作ったのよ」「嫌いになったの?」「パパとシュザンヌ(姉)と同じだわ」「がっかりね」「チョコレート菓子なら食べるくせに」「お前が分からない」。これでは、いくらなんでもくどい。姉が、「お腹が空いてないだけじゃない?」と助け舟を出しても、「お前には訊いてない」の一言。「ジュリアン、お願いだから食べてちょうだい」の言葉に、ジュリアンが一口食べて吐き出すと、「何て子なの!」と怒る。その後、玄関でテニスに出かける父に、ジュリアンは「一緒に 行けない?」と頼む。自分勝手な父は、「一人で プレーしたい」と断る。相談もできないジュリアン。
  
  

ジュリアンは、アリスに気に入ってもらおうと、ヒゲ剃りでウブ毛を剃ってピアノの練習に。アリスに「剃ったの?」と訊かれ、2人でクスクス笑って肘でつつき合う。アリスは、ハンサムなジュリアンに夢中なのだ。
  
  

母が、郵便物を取りに行くと、その中に、アリスがジュリアンに送ったラブレターが。母は、何のためらいもなく封を破り、手紙を読む。そして、ショックを受けて思わず柱に寄りかかる。ジュリアンを自分の占有物だと思っている母にとって、“ライバル” の出現は衝撃的だった。家に帰ってきたジュリアンは、母につかまり、顔が剃ったことでネチネチ言われる。そして、姉から、母がアリスの手紙を見つけたことを聞くと、寝静まってから屋根裏部屋に行き、破り捨ててあった手紙を探し出し、破片を並べて何が書いてあったかを見る。母が嫌いになるジュリアン。
  
  

ジュリアンが、学校から帰ってきて、家には入らず庭のテーブルに座っていると、つかつかと母が寄ってくる。「帰ってたの?」「なぜ 黙ってたの?」。ジュリアンは、サッカーでシャツを破いたと話す。母は、藪から棒に「日曜に、プールに行きましょ」と言い出す。日曜の午後には、決勝戦のためのサッカーの特訓があるからと断ると、「どっちが、重要なの?」「友達とサッカーか、ママとプールか?」と母。「だけど、チームは重要だよ」。「用事を忘れてた、と言ったら?」。「でも、コーチは思わないよ。ママとの水泳の方が、決勝戦よりも重要だなんて」。「事実を 話さなければ?」。「どんな風に?」。「知らないわよ。言い訳を作ればいいじゃない」。「例えば?」。「家族の親睦会だと言ったら?」。「嘘つくの?」。「他人の感情を傷付けないため、と思えばいいでしょ」。ここまでくると、異様としか言いようがない。 ジュリアンの不信感もつのる一方だ。
  
  

そんな母親と少しでも和解しようと、ジュリアンは、アリスのために買ったチョコレートを母にあげることにした。母の部屋に入り、「これママに」「イースターだよ」と渡す。母:「イースター? 今じゃない」。「まだだけど、この前買ったんだ。忘れるといけないから」。「具合でも悪い? 気は確か? お金はどうしたの?」。「パパからもらった」。「この数ヶ月、渡してないはず」。「その前に もらった」。「こんな時期に、チョコを買うなんて普通じゃない。何て馬鹿げた! 正気の沙汰じゃない! こんな事、絶対に教えてない!」と言って、チョコを床にばらまく。そして、「拾って! きれいになさい! チョコなんか要らない!! 出てお行き!! ろくでなし!!」。まさに、鬼だ。
  
  

夕食の席で、ジュリアンが着ている青いシャツを見た母。「そのシャツは?」。「昨日 買った」。「よく そんなお金が?」。「古着だよ」。「独断で? ひどい青色。見苦しい。何て 悪趣味なの。明日、返品してらっしゃい」。「できないよ」。「なぜ できないの?」。「何て 言えば?」。「知ったことですか。お前の責任でしょ。すぐ脱ぎなさい」。その夜、自室ピアノの隅で、ぬいぐるみを抱いて泣くジュリアン。姉は、そんなジュリアンを心配し、母には何を言っても通じないので、父に相談する。しかし、自分のことしか眼中にない父は、生半可な返事で話題をそらしてしまうだけ。最低の父親だ。
  
  

ジュリアンは、大好きな祖母から、青いウールのセーターをイースターのプレゼントにもらう。「気に入った?」。「うん」。「大きすぎた?」。「ううん、おしゃれだよ」。しかし、母に見つかると何を言われるか分からないので、ジュリアンはセーターをピアノの天屋根の下に隠した。
  
  

こうした精神的な重圧は、ジュリアンの学業や生活態度にも大きな影響を与えていた。学校に呼び出された母は、担任から、成績は急下降、宿題はしない、何を訊いても黙っているだけ、「理解不能です」と説明を受ける。家に帰った母。ジュリアンを座らせ、「学校から家に直行しなさい」「友達と会うのは禁止」「ピアノの練習は終了」「散歩はなし」「テレビも、サッカーも」「もちろん、祖母の家の訪問もなし」と申し渡す。学校の女子トイレでこっそりアリスと会うジュリアン。「忘れないで。土曜日」「パーティらしい服装で、ちゃんと来て」と言われるが、パーティのことは、母には一言も話せないでいるのだ(怖くて話せない)。
  
  

ここで、母子がダンスをしているシーンが挿入される。微笑む母と、無表情のジュリアン。現実か仮想現実かは分からないが、歌詞は現実をよく現している。「♪二人はいさかいをした。二人は互いに争い、裏切り、傷つけた。誰が勝ち、負けた? それは、誰も分からない」。次のシーンで、ジュリアンの祖母が家を訪ねてくる。何度も呼び鈴を押す。「開けなさい」「入れて!」「そこにいるのは分かってる」「孫に会わせて!」「孫から引き離さないで!」「お前は病気よ!」「ずっと普通じゃなかった!」。その悲痛な叫びを、隠れて聞いている母。土曜日、ジュリアンのパーティの日。夕食をパスした後、パジャマに着替え、ピアノの前に座り込んで考えるジュリアン。
  
  

ジュリアンは、一念発起、母に批判された青いシャツを着、家をこっそり抜け出し、自転車でパーティに向かう。パーティではアリスといいムードだったが、そこに、「ママが来るぞ! ここにいるのがバレた!」と友達が駆け込む。慌てて自転車に飛び乗るジュリアン。しかし、途中で見つかり、母に自転車から引きずり降ろされ、自転車はその場に放置したまま、家に連れ戻される。家に帰ったジュリアンは、玄関で母に「なぜ、やったの? あんなことを!?」とひっぱたかれ、殴られ、床に叩きつけられる。ここまでくると小児虐待だ。
  
  
  

朝、キッチンに呼び出され、「そこに座って。一日中、ここにいなさい。身動きも許さない」と命令されるジュリアン。次の日。一番の理解者だった姉が、大学の寮に移ることになり、家を出て行く。姉の部屋で、2人が最後に話し合っている。ジュリアン:「もう、最悪」。姉:「落ち込まないで。何とかなる」「時期がくれば、自然と解決していくものよ」「ママも、自分が何をしてるか悟れば、きっと変わる」。「きっと、もっとひどくなる」とジュリアン。「こんなの おかしいよ」。しかし、姉は去って行き、もう家には、自分と鬼のような母しかいない。
  
  

ジュリアンの祖母が危篤になっても、何もせず、ジュリアンにも行かせない母。しかし、夜、ジュリアンの寝室に入ってきて、愛おしげに顔をなでる。愛憎の二重人格が怖い。そして、学校の玄関前で、ジュリアンが友達と話していると、突然母がつかつかと寄って来る。ジュリアンが友達から離れて前まで行くと、「学校から家に直行しろと、言ったはず」と言い、思い切り頬を張り飛ばす。女子生徒も見ている前で。
  
  

母は、ジュリアンの部屋に置いてあったすべての私物を捨ててしまった。ぬいぐるみまで。ピアノも撤去された。何一つなくなった部屋の片隅でうずくまるジュリアン。精神的な崩壊の直前だ。次の日、帰宅し、階段に座って考え込み、ピアノを弾く感覚を思い出そうとするかのように指を動かす。追い詰められたジュリアンの悲しい動作だ。
  
  

姉の誕生日は、久しぶりに4人で夕食。何も食べずに食べ物をつつくだけのジュリアンと、その顔を携帯で撮りテレビに大写しにする母。異常な世界。食事後、浴室のタイルに座り込んだジュリアンに寄って来て、姉が訊く。「アリスとは どうなってるの?」。「知らない。会ってないから。もう、他人だ」。そして、姉が、祖母の葬式に出なかったことを反省していると話すと、「僕も出てない」。「どうして?」。「ママが、死んだって話したのは、葬式が終わってから」。「でも、なぜ?」。「支配欲かな」。「部屋に鍵かけられた?」。「そうだよ。全部、ママが決めるんだ」。
  
  

爆発前の最後のサイン。ジュリアンが、警察に「自殺する」と電話をかけた。こういう事態に慣れた女子警官が、母に「息子さんが、あなたに叩かれた」と言ったと問うと、母は、「叩かれた? 確かに、叩きました。少し」。「どう叩いたのです?」。「母親が普通、息子を叱るように」「確かにイライラしてました。疲れていたので」。一方、無責任な父は、「妻の言う通りです。大した事はありません」。しかし、ジュリアンも、女子警官の真剣な質問に対し、「そんな深刻じゃ… そんなに痛くも…」とはっきりしない。「“そんなに”って? 少し? かなり?」。「少し。ちょっぴり」。要は、これは、「これ以上、僕に構わないで」という母に対する警告なのだ。
  

その警告は全く効かなかった。翌日ジュリアンは帰宅すると、いつものように髪を直しもせず、服も乱れたまま(母への反旗)、キッチンに置いてあったリンゴをかじる。そして、学校で友達から借りたオモチャのピストルを鞄から出す。そこに、母が階段を降りて来る。ピストルを向けるジュリアン。そんなことにお構いなく、母は挑発するようにジュリアンに訊く。「このセーターは、どこで?」「訊いてるのよ、ジュリアン」「オモチャなんか、しまって」「おっしゃい」「これ、どこで?」「ピアノの中から見つかったのよ」「隠したの?」「訊いてるのよ、ジュリアン」。ここでジュリアンが、「これ、本気だよ」と言うと、人が変わったように「バカは おやめ!!」と怒鳴る。ジュリアンは銃を置く。すると、「おばあちゃん… そうね?」「じゃあ、こうしてやる」と言い、ハサミで切ろうとする。大事な祖母の形見に対する仕打ちに我慢できなくなったジュリアンは、「やめて!」とハサミに飛びつくが、母はそんなジュリアンを思い切り叩き、倒れたジュリアンを足で何度も蹴る。ジュリアンは、床に落ちた果物ナイフを手にし、母に向ける。「刺したい?」「やりなさい」「さあ」「やれるわ」「刺して!」「刺しなさい!!」。そして、遂にジュリアンは母を刺した。
  
  
  
  

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